探偵コラム

警察官よりもスキルが高い? 探偵の調査能力

毎年8万人も行方不明に

 新宿にある探偵社に、珍しい依頼が持ち込まれた。

 それは、両親から「息子を探してほしい」という依頼だった。探偵社に持ち込まれる依頼は、ほとんどが浮気調査を含めた素性調査だが、稀に行方調査も紛れ込む。

 探偵が活躍するのは、警察も動けないような行方調査が多い。行方不明者届が出されても、すべての案件に警察官が動くわけではない。行方不明者のデータベースに登録はされるが、緊急性や事件性がなければ、警察官は動かない、いや動けない。

 警察庁の調べによると、行方不明者届が出されている行方不明者の数は、2019年度で8万6933人。ここ10年間は、同じような人数で推移している。年間8万人もの行方不明者を1人ひとり追うことは非現実的だろう。地域でパトロールしている警察官の職務質問によって、行方不明者届が出されていないか確認するのが精一杯である。

「突然夫が帰ってこなくなった」という行方不明者届が出されても、自殺をほのめかすような遺書や事件に巻きまれたような状況がなければ、書類を受け取って終わりである。探偵社に依頼が持ち込まれるのも、そういった案件が多い。

 逆に緊急性が高い場合、警察に頼るだけでなく、藁でもすがる思いで探偵社にも依頼をしてくるケースもある。

 今回の依頼は、まさにそういう依頼だった。

聞き込み能力だけなら探偵のほうが上

 警察にも行方不明者届を提出していた。警察だけに任せておけないほど緊急性が高かったのだ。息子の部屋から遺書が発見されたのである。

 捜索方法は、地道な聞き込みだ。目撃情報を頼りに、車で対象者を追いかける。警察の捜査ならば、市民も協力的である。しかし、探偵には何も権限がない。そのため、警察官よりも聞き込みのテクニックがあると、取材した探偵は得意げに語っていた。

 防犯カメラを開示してもらう。警察官であれば、個人的な防犯カメラであっても、すぐに見せてもらえるだろう。しかし、探偵はどうだろうか。少しでも怪しまれたら、協力してもらえない。防犯カメラの映像はあくまでも個人情報であり、個人情報保護法では防犯の目的でのみ撮影が許されている。

 探偵は自らの素性を丁寧に説明し、事の緊急性を訴える。場合によっては、依頼者に電話して、信憑性を証明することもある。とにかく短時間で信頼を勝ち取らなければいけない。探偵という怪しい職業ならではの難しさがあるのだ。

 聞き込みと併行して、立ち寄った可能性のある場所で情報提供のビラ配りもする。どこまで情報を開示してもいいかは難しい。顔写真を載せないとビラを配っても意味がないし、一方ですべてを公開してしまうと、本人に気づかれてしまう。特に夜逃げのような失踪の場合、本人に気づかれたら逃げられてしまうだろう。

 今回のような自殺の可能性が高い場合は、そんなこともいっていられない。両親の了解を得たうえで、あらゆる情報を駆使して対象者である依頼者の息子を追った。

あと1日早ければ……

 調査を開始してから3日後、ようやく目撃情報が入った。

 場所は、河口湖周辺だった。対象者の車が河口湖インターチェンジを出たという情報があったのだ。

 探偵らに緊張が走った。河口湖インターチェンジは、富士山・青木ヶ原樹海へのアクセスとして有名だ。青木ヶ原樹海は、自殺の名所である。目撃されてからすでに2日ほど経過していた。探偵の脳裏には、手遅れかもしれない、という最悪の結末がよぎる。

 探偵らは河口湖インターチェンジに車を急いで走らせ、樹海の入口あたりを集中的に捜索した。

 数時間後――、対象者の車を発見した。

 残念ながら車の中で対象者は亡くなっていた。練炭自殺だった。

「もう少し早く見つかったら助かったかもしれない……」と、探偵は悔しそうにつぶやいた。

ストーカーからの依頼もある

 行方調査の依頼は慎重に判断しなければいけない。「彼女がいなくなったから探してほしい」といわれても、依頼者が相手の住所すら知らないとなると、ストーカーである疑いが強くなる。

 恋人だと思い込んでいるケースもあれば、気になる女性の素性を知りたいという可能性もある。地下アイドルの住所を調べてほしいという依頼もあったという。もし依頼を受けてしまったら、ストーカーの手助けをする結果になりかねない。女性の命を危険に晒すことにもなる。

 そのため探偵は、警察に行方不明者届(捜索願)が出されている依頼しか引き受けないことにしているそうだ。

 逆に、ストーカー被害に悩まされている人からの調査依頼もある。

 家に落書きをされたり、自転車にいたずらされたりする。その証拠を取って、犯人を捕まえてほしいという依頼である。もちろん探偵には犯人を捕まえる権限はないが、証拠を抑えて警察に被害届を出すことは可能だ。

 しかし、ストーカー規制法ができてからは、そういう依頼も少なくなった。今では、ストーカー被害に対して警察はすぐに動いてくれるようだ。

下着泥棒を捕まえる調査

 ある探偵は下着泥棒を捕まえたことがあると語った。

 二〇代後半の女性からの依頼だった。一人暮らしをしている依頼者のアパートは一階にあり、ベランダに干してある下着がよく盗まれるという。ベランダ沿いの道は大通りに通じる抜け道になっていて、通勤時間には多くの車とサラリーマンが往来する。一方、夜中になると街灯も少ないため、人通りもほとんどない。

 探偵はベランダに24時間態勢で録画できるように隠しカメラを設置した。依頼者から下着が盗まれたという報告を受けて映像を確かめると、不審な男が依頼者の下着を取っていく姿が写っていた。

 後日、カメラのモニターで監視しながら、探偵は依頼者の部屋で待機。下着を取った男をその場で取り押さえようとした。

 しかし、探偵が予想していたよりも、調査は長期に及んだ。というのも、不審な男がベランダを覗きにくるのだが、下着に手を伸ばさないのである。

 数日後、ついにある男が下着に手を伸ばした。潜んでいた探偵はその男を捕まえた。ところが、その男は下着を盗んでいなかった。功を焦った探偵は、男が下着を取る前に動いてしまったのである。しかも、その男は以前にカメラに写っていた下着泥棒とは別の男だった。他にも下着泥棒がいるのではないかという疑念を抱きながらも、調査を続けることになった。

 調査をしていると、確かに不審な男は現れる。しかし、下着を吟味するだけだった。探偵は仮説を立てた。「新しい下着は盗まないのではないか」と。調査に依頼者の下着を利用するわけにはいかないので、新品の下着をベランダに干していたのである。

夜な夜な“狩場”に集まる男たち

 依頼者の了承を得て、本人の下着を干してみた。すると、これまで手を出さなかった男が下着を取ったのだ。

 ついに探偵は男を取り押さえることに成功。そのまま警察に引き渡すことになった。下着泥棒にも趣味嗜好があり、使用されていない下着は盗まないというこだわりがあったのだろう。

 これで、一件落着かと思われたのだが、話はもっと複雑だった。この男も、最初の映像の男ではなかったのだ。最初にカメラに写っていた男、間違えて捕まえてしまった男、実際に逮捕された男……。他にもいたかもしれないが、少なくとも下着泥棒は3人もいたのである。

 どうも下着泥棒には「狩場」と呼んでいる場所があり、同じ性癖を持った者たちは、インターネットの掲示板で狩場の情報を共有しているようだ。盗みが成功したところ、盗みやすいところが狩場になるという。コインランドリーも狩場の定番である。

 依頼者のベランダは、下着泥棒にとって盗みやすい条件が揃っていたようで、犯罪者たちが夜な夜な下着を物色に来ていたのである。

 

 警察と違い、探偵は調査費をもらって動く。そのため、優先的に調査してくれるし、長期的な調査もしてくれる。その分料金は高くなってしまうが、時と場合によっては背に腹は代えられないこともあるだろう。