浮気調査

調査費用は高い? 効果的な探偵の利用法

決して安くはない調査費用

 昔からずっと佇んでいる古錆びた喫茶店。ほとんど客がおらず、昭和の匂いが色濃く残る店内で、女性は探偵と会った。本物の探偵に会うのは初めてだった。イメージしていた探偵像とは異なり、細身のスーツに身を包んでネクタイも丁寧に結ばれている。言葉遣いも非常にやわらかい。探偵という怪しい人物に対して抱いていた不安は若干弱まったものの、また別の不安が芽生えるような気がした。

「本当にこの人で大丈夫なの?」

 女性は夫の浮気で悩んでいた。浮気の直接的な証拠はなかったが、夫の態度から明らかだった。夫は一切の会話を拒否するようになったからである。夫は不器用な男性なのだろう。浮気をしていても、知らぬ顔で妻とこれまで通り過ごせる男性が多い中、夫は好きな人ができたら他の女性をすべて拒絶するタイプだった。一途と言えば美しいが、それが自分の夫で、しかも拒否される立場になったら地獄である。「おはよう」の挨拶すらなくなったのだから。

 初めて会った探偵は口数が少なく、それが安心感を呼んだのか、女性はこれまで一人で抱えていた苦しみや辛さを吐露した。誰かに話を聞いてもらえるだけで、これほど気持ちがラクになるものかと、大きな涙をこぼしながら実感した。

 女性の話を真剣に聞いていた探偵は、大まかな調査計画を頭の中で作成し、見積もり金額を弾き出した。

 その金額は、60万円だった。

 即答できなかった女性は、一旦席を外してから実家に電話した。父親に相談した結果、「わからないままにするくらいなら、ちゃんと調査してもらってハッキリさせなさい」と言われ、翌日に60万円を振り込んだ。

調査費用は探偵社によって異なる

 ある探偵社の社長に調査費用はいくらか尋ねてみると、「一日だけの調査なのか、一週間かけるのか、それとも証拠が取れるまで徹底的に調査するのかによっても違います。一日の調査でも、開始時間が朝か夕方かでも違うし、翌朝までかかれば高くなります。尾行を開始する場所や移動手段などによって、人員も二人でいいのか、五人くらい必要かが決まってきます。なので、簡単にいくらというのはお答えできません。どういう状況なのか、どうしたいのかをヒアリングしながら、具体的な金額を見積もります」との回答。詳しくは教えてもらえなかった。

 明朗会計を信条にしている別の探偵社では、浮気調査の場合、基本料金は4時間で6万5000円(一台の車両代、下見調査料、調査報告書作成費を含む)、延長料金は探偵1人で1時間6000円、初回プランでは探偵2人で7時間6万5000円とのこと。サービスプランもあり、探偵2人で8時間調査を行う場合は、すべて込みで9万8000円である。

 その探偵社の社長は「まぁ、儲からないね。真面目に誠実にやっているけど、いつまでも貧乏探偵社のままだよ」と嘆いていた。

 調査費用は探偵社によってまちまちのようだ。中には嘘の報告、例えば探偵が2人で調査したのに5人で行ったという嘘をつき、調査費用をかさ増しで請求する悪徳探偵社もあるそうである。

財産分与や慰謝料で取り戻す

 安くない調査費用を使ってでも探偵に調査をお願いしたい。そこには必然的に戻ってくるお金を勘定しているケースが多い。つまり、浮気の証拠をつかんで、有利な条件で離婚したいという思惑だ。財産分与の割合を多くしたり、多額の慰謝料を請求したりするわけである。

 先の女性の場合、夫と二人で住んでいたマンションを売却して財産を分け合うことになった。マンションの売却費からローンの残高を支払い、残った分を3対1で分けることになったのだ。

 つまり、女性が財産の75%を得ることになった。それもこれも、あのビジネスマンのような探偵の手によって、夫の浮気の確固たる証拠を抑えた成果によるだろう。

 数年前に7000万円で購入したマンションは、9000万円で売却できた。ローンの残高4000万円を支払い、残った5000万円の75%、つまり3750万円を得たことになる(金額は概算)。普通に離婚しても財産は半分ずつなので、25%(1250万円)を余分に得たことになるだろう。

 当然ながら、離婚というのはお金だけの問題ではない。夫の裏切りに対して、金銭的に得をしたから満足とはならない。すべてが納得できたかと言えば嘘になる。いまだに癒えない傷を抱えながらではあるが、財産分与で得たお金に救われたのも事実だ。女性は仕事をしているが、「今の生活ができるのは、あのときのお金があるからです」と本音を打ち明けてくれた。

海外まで追いかける浮気調査

 探偵社に相談される案件は、金持ちからも多い。財産が多ければ、それだけ財産分与も慰謝料も多く取れるからだろう。そういう場合、調査にかかる経費を見境なく使っていいと言われることがある。例えば、海外まで対象者を追いかけるケースは、依頼者にそれだけ金銭的余裕がなければ難しい。経費だけで何十万もかかってしまうのだ。

 調査費用とは関係ないが、海外での調査トラブルを1つ紹介したい。

 目鼻立ちがはっきりとした40代後半の女性からの依頼だった。50代の夫の浮気調査なのだが、妻は離婚する意思を固めていて、有利な条件で離婚できるように浮気の証拠を取ってほしいとのことだった。「お金はいくらかかってもいいから、証拠をつかんでほしい」とのこと。

 依頼を請けた探偵は対象者と浮気相手が香港に旅行するとの情報を嗅ぎ取り、同じ便の同じビジネスクラスに乗り込んで空に旅立った。対象者らが高級ホテルに泊まっているため、探偵らも高級ホテルにチェックイン。探偵の1人はロビーで対象者の出入りを張り込み、もう1人は対象者の部屋番号を詮索することになった。

 高級ホテルであるがゆえに、探偵らを放っておいてくれない。何人もいるボーイたちが、何度も「May I help you?」と声をかけてくる。

 そして、問題が発生。ボーイの1人にバッグに仕込んでいたカメラが見つかってしまった。そのボーイは、高級ホテルに不釣合いの格好をした若い男を不審に思って注意していたのだろう。小奇麗な格好をしていても、探偵の存在は明らかに異質だった。

「全然人種が違う。いきなり総理官邸に忍び込んだみたいなものだよ」と探偵は弁解していた。高級ホテルに滞在しているのは欧米人ばかりで、日本人男性が二人で泊まっているだけで目立っていたそうだ。

 カメラに気づかれた探偵は盗撮犯だと疑われたが、言葉が通じない。ボーイは英語で、立場が上のホテルのスタッフは広東語だった。グーグルの翻訳アプリで会話をするのだが、言葉が通じないだけでなく、日本語から英語、英語から広東語、広東語から日本語など、スムーズに話が進まなかった。

「撮影していただろ?」と問い詰められたが、最初は「そんなの知らない。撮影していない」としらばっくれた。するとホテル側は監視カメラの映像を持ってきた。その映像には、カメラで撮影している探偵の姿がハッキリと写っていたのである。

 そんな映像を突きつけられて絶体絶命のとき、探偵は咄嗟に言い訳を口にした。「ホテルの内装を勉強しているんだ。建築の勉強のために撮影していたんだ」と。ホテル側は納得してはいなかったようだが、最終的には、録画した映像を消すこと、今後の出入り禁止で話はついた。

 今回は苦しい言い訳でなんとか切り抜けたが、今の香港は中国であり共産圏である。もし悪いほうに転べば、拘束されてもおかしくない。日本のスパイと疑われる可能性もあり、下手したら日本に帰って来られなかったかもしれない。

 これは海外調査の話ではあるが、高い調査費用の裏には、それだけリスクも付きまとうのかもしれない。